僕は君にとってどういう存在?

親友?

幼馴染?

愛しい恋人の『弟』?









Cry for the moon
























ピンポーン―――








以前のことをキラが物思いに耽っていると、またチャイムの鳴る音がした。

最近よく人が来るなぁと苦笑しながらもラクスに一言言ってから部屋を後にし玄関に向かう。

遊びにきてくれるのは嬉しかった。

自分を訪ねてきてくれる。

それだけで、自分の存在を彼らが覚えていると安心できるから。

玄関のドアを開けて、キラは目を見開いた。



















「よっ、久しぶりだな。」

今一番会いたくなかった彼女が笑いかけてきた。

それでも、わざわざたずねてきてくれた彼女を追い帰すことなんてできない。

「あ、カガリ久しぶりだね。」

いつもどおりに対応できていることを祈りながらキラはラクスと同様にカガリを招き入れた。

部屋にいるラクスに軽く挨拶をして、どこかよそよそしい態度でカガリはキラの目の前に立った。

「どうしたの?」

不思議そうにたずねるキラに

「あのな、来週アスランに遊びに行かないかって誘われたんだ。」

その言葉に体が強張るのが自分でもわかった。

「・・・・・そっか。」

嬉しそうな表情をしなければならないのに急にそんなことをいわれ顔が強張る。

嬉しそうな表情ができない。

どうにか一言だけ言った。

「で、遊びに行くのにアスランとキラと私で行こって言われたんだけど、お願いだ。

私とアスランだけで遊びに行きたいんだ。」

不器用なものの言いかただったけれど言いたいことは分かった。

自分がアスランに遊びに行く件を断れということ。

どうせ、二人は婚約しているのだ。

自分が行ったって邪魔になるだけ。

むしろ、二人の笑いあっている姿を見たくない。

「ぃ....いよ。」

キラがそういってくれるとは思わずにカガリは感謝の気持ちとともにキラに笑いかける。

「ありがとな、キラ。やっぱり、私の弟だ。」

『私の弟』

その言葉に妙な疑問を感じた。

もしかしたら、アスランもまた僕のことを『カガリの弟』と思っているのじゃないか?

だから、僕のことを構ってくれるんじゃないのか?

幼馴染だから。

親友だから。

カガリの弟だから。

そんな考えが頭を遮った。

そして、半ば無意識にカガリから一度目を背けてカガリの顔を見た。

「っ、カガリなんか大っ嫌い!!」

急にキラが大声で睨みつけてきたことにカガリは驚きを隠せなかった。

感情が押し殺せなかった。

感情のコントロールができなかった。

「いつもいつも、カガリが遊びに来るときはアスランの話しばっかり、僕に会いに来るのは

アスランのことを聞きたいから?」

そう、いつもいつもカガリはアスランのことを聞きにくるだけ。

自分の心配もしてくれるけど、それもどうせアスランの親友であった自分にアスランのことを

聞きたかっただけではないか?

そう考えずにはいられない。

それしか考えられない。



カガリはただ呆然としたままキラの顔を見た。









彼はここまで怒る人だったか?

フレイの件でもここまで怒らなかった。

ただ、ただあの時精神的に壊れ始めていたのは知っていた。

だから、何も言えず何もしなかった。

二人の問題でもあったから。

だけど、今の彼はどうだろう?

フレイのことで怒ったあの時とはすごく違った。

驚きと同時にすごく怖かった。

「カガリさん、すいませんが帰ってください。」

「っ!?あ・・・あぁ。」

ラクスはキラを庇うように抱きしめながらカガリに訴える。

こんな状態のキラの前にカガリがこれ以上いればキラが壊れそうに感じたのだ。

ラクスの言葉にどこかやるせない顔だったがもう一度キラのほうをみてカガリは部屋を出て行く。

カガリが部屋からいなくなってキラはポロポロと涙を流した。

声にださず、声にだせず

ラクスは何も言わず、ただキラの背をなでた。







ラクスに対しての罪悪感とカガリに対しての嫉妬とイザークやディアッカの言葉が

頭のなかをおかしくさせる。

立っているのも無理なのか後ろに倒れそうになるのを他人ごとのように感じながら意識を手放した。

「キラ様」

頭の片隅にラクスの声が聞こえたような気がした。









20040809