Cry for the moon











「アスランは気づいていないのでしょうね。」

カガリが座っていた席へとふわりとした感じで座り、イザークの瞳を見つめる。

イザークもその瞳に返すようにラクスのほうを振り向き頷く。

「ええ。」















アスランは、無意識で呼んでいるのだろうが人を呼び名が違うのだ。

ラクスや彼より年上の人のことは『あなた』

ミリィやサイ、年下の人のことは『きみ』

キラだけは、『お前』





では、カガリは?



彼女のことは彼はなんて呼んでいたのだろう?

戦中、想いが通じ合ったとき





『お前はオレが守る』





『お前』といったくれた彼。







でも、今は







『君は人の話聞いていたか?』







いつから?

いつから、皆と同じように『きみ』と呼ぶようになったのだろう?

なぜ、キラのことだけ『お前』?

それは、やはり無意識の親しみをもった、もしくはそれ以上の感情をもった人への呼び方。

自分はその無意識のうちに親しみをもって呼ばれることはもうないのだろうか?

「くそっ。」

やり場のない怒りのような感情がいらいらとさせる。

「アスランは、ただ怯えているのでしょう。キラとの関係に。

だからこそ、その感情を押し殺し胸にとどめ忘れているのです。」

現実を見れば分かるはずなのに

「アスランの行動はただの逃げ。」

キラを好きだと

恋愛感情で好きだと認めたくないだけ。

そのおかげでキラが傷ついているとも知らずに

自分の殻に閉じこもっているだけ。

「あいつは、馬鹿だからな。」

『馬鹿』を強調していわれた言葉にラクスは目を一瞬見開き、すぐにクスクスと笑った。

「そうですわね。アスランは馬鹿ですもの。」

でも、そんなアスランが側にいたからこそ知ったものがあった。







『ザラ』と言う言葉を嫌い


キラのことになると一生懸命になる彼


何も顧(かえり)みず


ただ、キラのことだけを考えて


大切な人、仲間を守っていた


『正義』という機体を操って


仲間を殺され

親友を殺した

それを知ったからこそ、

「それでも、貴方はアスランのことを罵ったりしないのでしょう?」

「ふん、当たり前だ。」

「イザーク様は優しいのですね。」

ラクスから顔を背けいった言葉にラクスは慈愛に満ちた瞳でイザークに微笑んだ。





補足。
ミリィやサイを『きみ』と呼ぶのは見下した言い方ではありません。
キラの友達。キラが守りたい守らなければと思った人たち。
だから、自分にとっても彼らは守らなければいけない人たち。
キラよりも劣っているけど、アスランにとっても彼らは守りたい人のうちに自然と入っているって
ことなんです。




20041120