『キラは大きくなったら何になりたい?』

『んとねっ、んとね平凡な家に住んで平凡な職について平凡な暮らしをするの。』










<ひなぎく草>












この家に住み始めてから始めての冬が訪れてくる。

月でもプラントでもない地球にだけある『お正月』。

ヘリオポリスに住んでいたキラはもちろん『お正月』を知っているが、アスランはプラント生まれなので『お正月』を知らなかった。

キラにとってお正月を過ごすのは何度もあったがアスランと共に正月を迎えるのは初めて。

そのこともあってか、正月の前にある大晦日の大掃除には張り切っていた。

幸いというかお正月というだけあってアスランの仕事も休みである。

そんな張り切っていたキラ。

アスランもそんなキラを見て進んでキラの手伝いをしていたのだが....











「僕ってこんなこといっていたんだ。」

妙に昔の自分に感心してしまう。

何て、現実的なことを言っているのだろう。

と、いうか平凡な生活って....。

その前に、『何になりたいか?』と聞かれているのに露点がずれている。

まぁ、その将来の『平凡な生活』

今では『平凡』という『へ』の字でさえ自分には当てはまらないであろう。

だって、戦争していたし戦いもしたし。

あと、『平凡』とは到底いえないであろうことも現在一つ。

「ねぇ、キラ。掃除は?」

自分には重くてなかなか持てないであろうダンボールを軽々ともっているアスランが声を掛けてきた。

先ほどまで張り切っていたはずなのにお前は何をしているんだ!?とでも言いたげな口調で。

彼の恋人になったことで『平凡』からかけ離れているだろう現在の一つ。

それを嫌だとは全然思わないしお互いが思いあってると知ったときは嬉しかったもの。

「キラ、掃除!」

最近では、うるさい小姑のように感じてくること少々。

「あとで!あっ、アスランも見てみなよ。」

ダンボールを隅においてアスランは髪が邪魔なために縛っていたタオルをとりながらキラのもとへとやってくる。

「たしか、アスランのもあったはずだよ。」

何をやっているかと思えば掃除をしていたときに出てきたであろうDVDの山。

で、テレビの中には可愛らしく笑っている子供時代のキラ。

あの頃のキラは可愛かったなぁと一人しみじみと思い出にひたる。

いや、今のキラも十分可愛いことは承知している。

「あっ、あった。これこれ。」

ゴソゴソとダンボールの中を探していたキラは目当てのものを見つけたのか嬉々としてDVDをセットした。

テレビが一瞬暗くなったと思ったら出てきたのはアスランの幼いときの顔。

キラは、画面のアスランをみて

「アスランだぁ、懐かしいなぁ。」

と一言。

いや、ここに自分はいるからと、呆れた。

確か、自分の記憶が正しければ月に住んでいるときキラの両親がとってくれたものだったはず。

テレビの中にいる自分は今とはとても違っていた。

目に見える身長も内にある考え方も。

ずっとキラの側にいられると信じていたあの頃の自分。





ふと、考え込んでいたアスランは自分に向かって話しかけているであろうキラの母の声に我に返った。

『アスラン君は大きくなったら何になりたいのかな?』

そういえば、この時自分は何ていっただろう?

これを撮ってもらったのは記憶に微かに残っているが、さすがにこの時なんていったのかまでは覚えていない。

キラは、目を輝かせながらテレビの中にいる幼い自分の答えを待っている。

幼いアスランは、その問いに首を一度傾げてからニコリと微笑んで一言。

『あのね、キラのお嫁さん。』





・・・・・・・・・。





部屋の温度が下がったような気がした。





アスランとキラは固まったまま、だが画面の中はそのまま話しが進んでいく。

『そっかぁ、キラのお嫁さんになりたいんだ。』

この声は、キラの母の声だろう。

『うん、なりたいです。』

『お婿さんじゃなくって?』

この声はキラの父の声。

どこか、苦笑じみた声音。

『うん、お嫁さんがいいの。』

『そっか、良かったわねキラ。アスラン君がキラのお嫁さんになってくれるって。』

『うんっ、幸せにするからねアスラン。』

いや、だから何でそんな満面の顔をして僕は答えているのだろう。

しかも、幸せにするとか言っているし.....

と、いうか母さん、少しはツッこんでほしかったんだけど。

どこか、お互いの顔が見れずリモコンを持っていたキラは一つボタンを押した。

静かになった。

沈黙が続く。

ポンッと手を叩く音と共にキラは立ち上がった。

「さて、アスラン。まだまだ片付けることはたくさんあるから早く片付けよう。」

「あぁ、そうだな。」

よそよそしくも二人は大掃除に取り掛かり始めるのだった。

それは、二人で始めて過ごすお正月の一日前のこと。








『ひなぎく草』=無邪気

20040911