a sanctuary



ふわっとシンの周りを舞ってキラはアスランのもとへと戻る。
アスランが手を差し出すとキラは柔らかく微笑んでアスランの手をとった。
だけど、キラのことが見えていないシンにはただ、アスランが空(くう)に手を翻したようにしか見えない。





「どうやら、オレ以外には見えないらしいんだ。」

「はぁ?」

どこか寂しそうに笑いながらもアスランはシンには見えないキラの頭を撫でた。
その仕草だけで見たこともない幸せそうな表情をする彼を目にして目を見張った。
それだけ愛されているのかな?と思う。
「名前はなんていうんですか?」
「キラだよ。“キラ・ヤマト”」
「どんな方なんですか?」
自然と出た言葉にシンは自分でも驚いた。
自分には見えない人の事を聞いたって意味のないものである。
だけど、アスランは微笑んだまま答えた。
視線は相も変わらずキラに向けてだが。


「そうだなぁ、泣き虫で意地っ張りでわがままでお人よしで....」

“アスラン、君僕に何か恨みがあるの?”

プルプルと拳を握り締め怒りを納めようとするがアスランはそんなキラを気にはせずに言葉を続ける。



「.....あの」
自分は容姿を聞いたつもりなのだが、性格を聞いた覚えはない。
延々と続きそうな、すでにノロケ状態と化しているアスランにシンは口を挟もうとしたが、急に真剣な表情をして一拍おいた。

「何よりも人を傷つけることを極端に嫌う。だから、今オレが“戦争”に加担していることも本当はよく思ってくれていないんだ。」


“.....アスラン”


a sanctuary[聖域]:侵してはならないとされる所。また事柄。














Spirits of the dead


文献を読んだ。
内容はうろ覚えだけど、印象深い表紙に引きつけられたのを覚えている。
真っ青な綺麗な空。地球にもまだ、こんなに美しい空があったのだと驚いた。
月やプラントには絶対にないであろう空。
いつか、彼と行きたいなと一人ごちた。





だけど、いつしかその記憶を頭の片隅へと追いやり忘れていたのだ。


今の今まで.....。



■□■□■

思い出したのは戦争が終わってから。
沢山のことがあって沢山の痛みを知った。
何より一番の痛みは愛しい彼を亡くしたとき。
信じられなくて信じたくなくて耳をふさぎ拒否し続けていた。

でも、現実はそれを許してはくれなくて年月が過ぎ去っていくごとに彼はいないのだと知らされた。

愛しい彼を失って俺はそこに骨をまいた。
蒼い真っ白な雲を浮かばせながらも澄み渡る空気の中、骨は空へと消えていった。

それから、ちょうど三年後骨を蒔いた地へと赴いた。
本当は一年おきに訪れる予定だったのだが戦争を集結させた後は何かと多忙であったため地球にさえこれなかった。
それなら、この多忙の理由の原因の仕事を終わらせるまでだと決心したのは案外早かった。
そして、目まぐるしい月日が流れて三年。






愛しい彼が眠っているであろうその地へと訪れた。
そこで、目の辺りにした光景。


疑わずには言われなくて、信じられなくて。
ただただ、
現実ではありえるはずもない光景に目を見開いた。



ふわりと宙に浮く彼はどこからどうみても、自分の愛しい彼に瓜二つで。
そんなオレに気付いたのか彼は微笑んだ。


“初めまして。僕は綺羅っていうんだ。旅人さんのお名前は?”


それが、彼との出会い方。
















Spirits of the dead U


「アスラン。」

おかしなものだ。

顔も性格もそっくり。
ましてや、名前だって同じだ。

「綺羅。」


名前を呼ぶと花が綻ぶかのような笑み。
抱きしめたい衝動にかられるが、彼には指一本触れないのだ。

半分透けて見える彼の体は、ふわふわと浮いているもので、そして自然と鳥がやってくる。
綺羅は微笑み、鳥へと手を延ばすけれど鳥を触れずに空(くう)を掴むことに自然となってしまう。
寂しさを感じている綺羅に、こちらまで勝手に寂しさを感じてしまう。

感情はあるのに、肉体はなく何も掴めない綺羅をこの世には生きていない存在なのだと思わせる。
だけど、笑みは綺麗なもので透けて見える綺羅を幽霊だとは思えず、天使のようだと本気で思った。


だからこそ、そんな彼に抱きしめることなんて出来なかった。
手を触ろうなんて考えることも以ての外だ。


「今日もいい天気だね。」
「そうだね。」
ただ、それだけ言い放つと綺羅は笑みをさらに深めた。